正解のないケーススタディ
SRZのケーススタディは、
正しい答えを当てるためのものではありません。
目的は、いつもの反応から少し離れて、
別の応答を試してみることにあります。
人は、強く言われたり、急がされたり、断りにくい空気に置かれたりすると、
すぐに反応してしまいます。
したがう。
我慢する。
譲る。
合わせる。
抱え込む。
先回りする。
その反応が、すべて悪いということではありません。
したがうことは、素直さや協調性から出ることがあります。
我慢することは、忍耐強さから出ることがあります。
譲ることは、思いやりや公平さから出ることがあります。
合わせることは、場を乱したくない配慮から出ることがあります。
抱え込むことは、責任感や誠実さから出ることがあります。
先回りすることは、気遣いや有能であろうとする心から出ることがあります。
ただ、それがいつもの反応になっていると、
知らず知らずのうちに、
いつも同じ場面でいつも同じ過ちを繰り返していることがあります。
その繰り返しから逃れるために、
確認する。
質問する。
交渉する。
相談する。
保留する。
撤回する。
SRZのケーススタディでは、そのような選択肢を、
実際の言葉として使ってみます。
ビンゴの球には、BINGOという5つのアルファベットが刻まれています。
Bはビジネス。
Iは制度。
Nは近所。
Gは集団。
Oはオンライン。
このように、5つの場面がランダムに決まります。
その球には、1から75までの数字も刻まれています。
この数字と、その日の日付とを組み合わせることで、
20個の題材、6つの圧の種類、3つの圧の強さ、5つの緊急度も無作為に決まります。
したがって、ケースのもとになる条件だけでも、
5場面 × 20題材 × 6種類の圧 × 3段階の強さ × 5段階の緊急度
で、理論上は9,000通りになります。
たとえば、日付が0626、球がB29であれば、
計算によって次のようなケース設定が決まります。
場面は、B:Business。
題材は、B-07「法人向けコールセンター」です。
題材の核は、「顧客・取引先の強い要求」。
参加者が迷う中心は、「相手の怒りを収めるために、できない約束をしてしまうか迷う」です。
さらに、この日の条件として、
圧の種類は「責任の圧」、
圧の強さは「強い」、
緊急度は「今日中・その日のうち」になります。
つまり、仕事の場面で、
法人向けコールセンターが舞台となり、
顧客や取引先から強い要求を受ける。
その日のうちに返事をしなければならず、
対応責任が強くかかる中で、
相手の怒りを前にして、何か前向きな返事をしたくなる。
そのようなケース設定になります。
このケース設定を、実際に表示されるケースにすると、
たとえば次のようになります。
あなたは、法人向けコールセンターで働いています。
取引先の担当者から、強い口調で電話が入りました。
「今日中に、そちらの責任で何とかしてください」
「前にも同じことをお願いしましたよね」
「できるかどうかではなく、やってもらわないと困ります」
相手はかなり怒っています。
あなたがその電話を受けた以上、
いったん対応しなければならない空気があります。
相手は、今日中の対応を求めています。
電話口では、何か前向きな返事をしなければ、
さらに怒られそうに感じます。
ただ、相手が求めている対応について、
あなたはまだ担当部署にも上司にも確認できていません。
自分の権限で、どこまで約束してよいのかもはっきりしていません。
あなたは何と返しますか。
このように、ケースは、まず一つの具体的な場面として出されます。
しかし、そこで終わるわけではありません。
参加者は、三回応答します。
一回目の返答を受けて、場面が少し進みます。
そこで二回目の返答をします。
さらに場面が進み、三回目の返答をします。
仮に、一回の問いかけに対する応答が10通りしかないとしても、
三回続けば、
10 × 10 × 10 = 1,000通り
になります。
ケースのもとになる条件が9,000通りあり、
それぞれに1,000通りの進み方があるとすれば、
9,000 × 1,000 = 9,000,000通り
の結末が生まれます。
これは、あくまで「一回の応答が10通りしかない」と仮定した場合の数です。
実際には、人の返答は10通りではありません。
たとえば、この説明の中に出てきただけでも、
したがう。
我慢する。
譲る。
合わせる。
抱え込む。
先回りする。
確認する。
質問する。
交渉する。
相談する。
保留する。
撤回する。
これだけで、すでに12通りあります。
しかも、これは返答の大まかな種類にすぎません。
同じ確認でも、言い方は人によって違います。
同じ保留でも、短く言う人もいれば、理由を添える人もいます。
声の強さ、迷い方、謝り方、言葉の順番も変わります。
展開は、数え切れません。
数え切れない以上、先生が模範解答を知っているはずがないのです。
だからこそ、正解はないと言えます。
このケーススタディで大事なのは、
うまい答えを当てることではありません。
その場で、自分が使える選択肢を試してみることです。
ふだんなら、したがう場面で、確認してみる。
ふだんなら、我慢する場面で、質問してみる。
ふだんなら、譲る場面で、交渉してみる。
ふだんなら、合わせる場面で、相談してみる。
ふだんなら、抱え込む場面で、保留してみる。
ふだんなら、先回りする場面で、撤回してみる。
もちろん、現実には、今すぐ動かなければならない場面もあります。
しかし、多くの場面では、
反応と応答のあいだに、
ほんの少しの余地があります。
SRZのケーススタディは、
その余地を見つけるための練習です。
正解を探すのではなく、選択肢を試す。
採点されるのではなく、自分の応答を見つける。
いつもの反応に戻る前に、別の言葉を一度使ってみる。
このケーススタディは、正解を探すためではなく、
いつもの反応から少し離れて、
別の選択肢を試すために作られています。

